企業が資金調達をする手段として、社債などを発行して市場から資金を得る「直接金融」と、銀行融資などで資金を得る「間接金融」があります。
日本企業の90%以上を占める中小企業にとって、直接金融ができる企業はほとんどありません。多くの中小企業は、銀行融資のみの資金調達手段で資金繰りを確保しています。
企業を継続するうえで、重要な事項である銀行融資には、大きく分けて2種類の融資方法があり、「保証協会付融資(通称:マル保)」と「プロパー融資」になります。
それぞれの違いや特徴について解説していきます。
保証協会付融資とは
信用保証協会とは、信用保証協会法に基づき設立された法人で、中小企業が円滑に資金調達できるよう支援する組織です。
信用保証協会は全国各都道府県にあります(一部市にもあり)。
信用保証協会の主な役割は、企業が銀行から受ける融資に対して、信用保証協会が公的な保証人となり、企業の資金調達を支援することです。
したがって有事の際、銀行は持っている債権(お金を返してもらう権利)を信用保証協会に譲渡することによって、融資を回収できます。
簡単にいうと、企業が独力で銀行からの融資を返済出来なくなった場合、信用保証協会が代わりに融資を銀行に返済してくれるシステムです。
つまり、銀行にとっては貸倒リスク(融資が返済されないリスク)が少ない状態で、融資することが出来ます。
このように、信用保証協会が、銀行融資に対して保証を付けた融資を保証協会付融資と言います。
なお、保証協会付融資の対象は中小零細企業(個人事業主含む)に限られており、大企業は保証協会付融資を受けることが出来ません。
※https://zenshinhoren.or.jp/basic/index.html上記URLは全国信用金庫連合会の保証付融資対象会社の条件となりますが、最終的には個別(各地域)の保証協会によって、若干の誤差があるので、提出させて頂いた記事には、その程度の表現に留めておきました。基本的には中小企業基本法で定義されていない大企業以外であれば、保証協会の対象という認識です。
プロパー融資とは
信用保証協会の保証がない融資をプロパー融資と言います。
プロパー融資は、仮に融資が返済されなかった場合、保証協会付融資と違い全額銀行の損失です。
銀行にとってそれだけリスクが高い分、信用力のある企業にしかプロパー融資を実施しません。
当然、審査のハードルも保証協会付融資に比べて厳しくなります。
また、融資のリスクを最小限に留めるために、担保の差入や第三者保証の受入などの条件が付く可能性が上がります。
銀行としては、融資した金額全額が損失にならないよう、企業が持つ資産をあらかじめ担保し、融資の保全措置を講ずるのが一般的です。
保証協会付融資の銀行側と企業側のメリット・デメリット
保証協会付融資の銀行側・企業側それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
銀行側のメリット
貸倒リスクが低減されているため、企業への融資がしやすくなります。
特に、業績が芳しくない企業や、開業間もなく実績のない企業に対し、プロパーでの融資が難しい場合は、保証が付けば積極的に支援できます。
融資自体を受けたことのないベンチャー企業などには、保証協会付融資を利用し取引を開始することで、メインバンク化を図ることも可能です。
企業側のメリット
プロパー融資が受けられなくても、協会の保証が付けば融資を受けられます。
保証協会付融資は、原則無担保で、第三者保証人(代表者以外の保証人)が不要です。
担保物件などを、緊急時のプロパー融資に差し出すように確保することができます。
保証協会付融資を上手に利用することで、いざという時のプロパー融資の調達枠を残すことが出来ます。
銀行側のデメリット
融資のスピード感に欠ける点です。
銀行として、協会付融資であれば支援方針が固まっている状況下、保証協会の与信判断に時間が掛かるケースがあり、顧客にスピーディに対応出来ない場合があります。
最悪の場合、保証協会から保証を謝絶された場合は、保証協会付融資による支援が出来ません。
保証協会付融資は、あくまで銀行単独の判断だけでは融資できないというネックがあります。
企業側のデメリット
保証協会付融資では、企業は銀行への金利以外に信用保証協会宛に別途「保証料」を支払う必要があり、費用負担が増加します。
保証料は企業の経営状態に応じて9段階設定されており、業績が悪い企業になるほど、保証料が増加するシステムです。
CRD(中小企業信用リスクデータベース)の評価結果に基づき、保証料の区分1~9までが決定しますが、CRDの評価方法については非公表です。
区分ごとの保証料は協会毎・保証制度毎に違いますので、該当エリアの信用保証協会HPでご確認ください。
また、保証協会付融資には、融資額に上限があるのも注意点です。
一般的な保証枠である普通保証では、無担保で8,000万円・有担保で2億8,000万円が保証上限となっており、それ以上の借入は原則できません。
協会付融資に依存しすぎると、有事の際に借入上限に達し、必要額が調達できない可能性もあるので注意しましょう。
なお、普通保証枠とは別枠で、一定の要件を満たした場合に保証が受けられる制度融資枠があるので、効率的に保証枠を使い分けるのをおすすめします。
プロパー融資の銀行側と企業側のメリット・デメリット
プロパー融資の銀行側・企業側それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
銀行側のメリット
銀行の単独判断で支援方針が決定できるため、スピード感のある顧客提案が可能です。
特に、企業の資金繰り状態が極めてタイトな時、信用保証協会の保証判断を待っていられないケースがあります。そんな時に、銀行の独断で緊急支援を可能にします。
メイン先で取引が長い企業に対しては、保証協会無しでリスクをとって支援する場合も、最近時では増加しています。
もう1つのメリットとして、協会付融資に比べて金利が取りやすい点です。
プロパー融資では、銀行としてもリスクを提供している分、金利を高めに設定します。
保証協会付融資でいう保証料相当額の金利上乗せが、プロパー融資での金利水準となります。
しかし、業績が良く恒常的にプロパー融資を借りている企業に対してはこの限りではありません。
業績が良い分、他の銀行も積極的に融資の売込を行うため、金利の安売り合戦になることも珍しくありません。
企業側のメリット
保証料負担がない点がメリットの1つになります。
融資金額が増えれば増えるほど、保証料の負担感がボディーブローのように効いてきますので、プロパー融資では資金繰り面で有利です。
また、プロパー融資の実績があることで、次回以降の資金調達交渉が有利になります。
初めてのプロパー融資の条件が、次回以降の融資基準となりますから、返済実績に応じて前回よりも金利を引き下げる交渉がしやすくなります。
複数の金融機関と付き合っている場合は、1つの銀行からプロパー融資を受けられた実績があれば、他の銀行からもプロパー融資を引き出せる可能性が増えるでしょう(あくまで最終的には、金融機関の個別判断になりますが)。
プロパー融資には、融資上限額がありあせんので、大きな設備投資を必要とするとき積極的な投資判断が可能になるのも魅力の1つです。
銀行側のデメリット
当然、貸倒リスクになります。
協会付融資であれば、信用保証協会が代位弁済(企業の代わりに銀行へ融資を返済)してくれますが、プロパー融資では万が一企業が返済できなければ、全額損失です。
超低金利時代が長引き収益が圧迫されるの銀行業の状況下、銀行としては1件のデフォルト(返済不能)が、経営に大きな打撃を与えかねません。
また、企業側メリットの反対で、一度プロパー融資を貸出すと次回以降の融資も当然にプロパー融資を求められ、貸出リスクを取らざるを得ない状況となります。
銀行としては、保証協会付融資もバランスよく利用することで、リスクをコントロールしたい一面もありますが、企業の思惑と相反するため、保証協会付融資の交渉が難航するケースが大半です。
さらに、他の金融機関もプロパー融資に追随してくることが多く、そうなった場合は金利などの条件面での競争になるため、1つの融資の収益性が悪化します。
企業側のデメリット
プロパー融資における企業のデメリットはありません。
保証協会付融資とプロパー融資の違い まとめ
銀行融資の種類から、それぞれのメリット・デメリットについて解説してきました。
銀行側のメリット・デメリットを知ることで、企業は銀行と、どう付き合っていくか考える材料になったと思います。
保証協会付融資は、保証料負担が伴いますが、円滑に事業資金を調達するのに有効な手段でもあります。
まだ業績が安定していないベンチャー企業や、一時的に業績が悪化している企業は、プロパー融資だけに拘らず、保証協会付融資とプロパー融資をバランスよく使い分けて、安定した資金調達力を確保しましょう。
保証協会付融資をしっかりと契約書通り返済することは、銀行にとって立派な「信用」になります。
先述の通り、プロパー融資は「信用貸」であるため、返済や取引によって、銀行との信用を積み上げていきましょう。